人とゲームのまんなかに。

(((・ω・)))

だから、僕はスマブラが好きだ。

僕はスマブラが好きだ。
毎月のようにスマバトやウメブラといった国内大会へ足を運んでいるし、
履歴書に"特技:大乱闘スマッシュブラザーズ"なんて書いてしまうし、
最近はめっきり減ってしまったけれど、
全国各地の宅オフに"遠征"した回数も数えきれない。
極めつけには、スマブラで知り合った友人と攻略同人誌まで作ってしまった

 

じ、人生の一部!

そ、それはほどほどにしておいたほうが。

……と桜井さんは言っていたけれど、人生の一部どころか
スマブラこそが人生! というプレイヤーは、決して僕だけではないはずだ。
だから僕は――もう10年くらいまえになるけれど――
その日もスマブラDXで対戦していた。
相手は弟くん。正確には、新しくできた義弟だ。

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妹が結婚して、僕には弟がひとり増えた。ひさしぶりに実家に帰った年の暮れ。
初対面の席で、彼は屈託のない笑顔を見せて挨拶してくれた。

とても若いうちに結婚して父親になった弟くん。歳はたしか、僕のひとつ下。
イマ風の男の子で、容姿も行動もいわゆる"イケメン"そのものだった。
自信に満ちあふれた表情で、しっかりこちらの目を見て話してくれる。

妹を安心して預けられるな、と思うと同時に、
僕の心は少しだけムラサキになった。
ファッションの話、芸能ニュースの話、地元の人間関係の話……
そういったゲーム以外の話がほとんどできない僕は、
彼と話が合うのか、正直とても不安だった。
弟にナメられてしまう兄ではいたくなかったのだ。

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「お兄さん、スマブラやりませんかっ」

でも、出会った数時間後に
僕の不安を吹き飛ばしてくれたのも、弟くんの言葉だった。
妹から僕の趣味を聞いて、話題のきっかけになるよう声をかけてくれたのだろう。
――なんてふうに考える間もなく、僕はすぐに「やろう!」と返事をしていた。
スマブラやろうぜ!」これ以上に心の躍る誘い文句を、僕は知らない。

そうしてスマブラDXでの対戦が始まった。アイテムあり、全ステージランダム。
弟くんのキャラはファルコンで、僕はもちろんネスだ。

僕はゲーム以外はからっきしダメだし、じつはそのゲームだって、
そんなに上手くもないのだけれど、スマブラの年季だけは長い。
だから、誰かといっしょにスマブラをプレイすると、
相手の性格を少しだけ感じ取ることができる。 

それは、自分が圧勝しているときにさりげなく崖を譲る思慮深さや、
モンスターボールを投げたときに大騒ぎしてくれるような
空気の読みかたとは、少し違ったものだ。
ステージ決定から対戦開始までの数秒間や、
攻撃と攻撃のあいだのフレーム、絶空のタイミングなどから、
僕はプレイヤーの呼吸を感じ取って、その人の個性を学ぶ。
ゲームを通じて、心にふれている気がする。

弟くんは、ひとつひとつのテクニックはまだ未熟だったけれど、
彼のひたむきさが、ファルコンの拳を通じて強く伝わってきた。
「ふたりはどこで知り合ったの?」「同じ高校だったんで、そこで……」
画面の外で何気ない会話を続けつつも、空気を震わせない言葉が、
ファルコンの動きから、確かに僕へ伝わってきたのだ。

「うわー、お兄さんのネス、すっげー強い!」

数回の対戦を終えて、弟くんは言った。
改めて、まっすぐな子だな、と思った。とてもいい子だな、とも。
これからもうまくやっていけそうだと感じて、僕はとても安心した。

「それがさあ、世の中にはまだまだスマブラバカがいてね……」
いったんコントローラを置いて、コタツの上のオレンジジュースを飲みながら、
お互いに好きなゲームの話をする。
やがて話題はゲームから離れ、好きなことを語り合う。とてもとても楽しい。

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スマブラは人と人を繋ぐゲームだ、と思う。
XからはWi-Fiを使って離れた人とも対戦できるけれど、
そうした単純な繋がりを言いたいわけじゃない。
笑いあったり競いあったりする中で、
お互いの心の繋がりを強くしてくれる。そんなゲームだ。

もしスマブラがなかったら、仲間どうしで本を作ることもなかっただろうし、
色のない週末を過ごすことになっただろうし、
まったく違う人生になっていたはずだ。
スマブラがきっかけで結婚したカップルも、たくさん知っている。
だから僕は、これからもこのゲームを盛り上げていきたいと思っているのだ。
決して大げさではなく、この人生を懸けて。

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こっそり近づいてきたのだろう。いつの間にか、妹が後ろに立っていた。
コントローラをもう一度握りつつ、弟くんが話しかける。

「お兄さん、強すぎるんだよー。手伝ってくれよ」
「えー、あたし、弱いよ?」

ゲームキューブに3個目のコントローラを繋ぎながら、
だいぶ照れくさかったけれど、僕は勝負を持ちかけた。

「いいじゃん。ひさしぶりにやろうぜ。2対1でいいからさ」

そうして2対1のチーム戦が始まった。
ファルコンの膝に当たって飛ばされたあと、
ちょうどヨッシーのしっぽがヒットして、僕のネスは撃墜された。
やられたときの「Ouch!」は、もう何百回、いや何千回聞いたかわからない。
でも今日はなぜか、その声がとてもうれしそうに聞こえて、鼻の奥がつんとした。

手を取りあって喜び合うふたりと、画面の中で踊るファルコンとヨッシー
鼻の奥から目頭へ、熱いものが流れてきそうだったけれど、
これでも俺は兄貴なんだと思って、なんとかガマンした。

僕らのスマブラはそのまま、夜おそくまで続いた。

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スマブラは人と人を繋ぐゲームだ、と思う。
僕らきょうだいを繋いでくれるのがスマブラなら、
これからもずっと、スマブラを通じて人と繋がっていけるのなら、
僕はどれだけ幸せだろう。どれだけうれしいだろう。

真剣に遊んでいる人たちがいて、笑いあって遊んでいる人たちがいる。
だから、僕はスマブラが好きだ。
懐がとことん深くってあたたかい、このゲームが大好きだ。

僕と、僕の大切な人とのあいだに、
そして、あなたと、あなたの大切な人とのあいだに、
これからもずっとスマブラがありますように。

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#ストイッククラブ Vol.1(2010年発行)所収の巻末エッセイを
 加筆修正して掲載しました。